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ブラック会社の悪魔は誰も止められない。社長でも無理・・・

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 問題のファイルは僕の隣りのマックのハードディスクに入っていたので、僕はそのマックの電源を入れた。立ち上がるまでの沈黙と、後ろからの視線が僕に強烈なプレッシャーを与えてきた。僕は勿論、山本さんと会話など出来るはずもなく、ひたすらモニターを凝視しながら、マックが立ち上がるのを待った。幸いなことに、最近しばしば出現していた爆弾は僕に気を使ってくれたようで、マックは問題なく立ち上がってくれた。僕は問題のファイルを開いて、印刷ボタンを押すと、席を立ち、プリンタの前まで行き、印刷ランプが点滅していることを確認した。しばらくして、プリンターからイラストレータの書類がでてくると、ミスはないか確認して山本さんのところへ持っていった。

 山本さんは無言で書類をチェックしていた。ほんの15秒ほどのチェックが終わると、彼は顔を上げ、僕に言った。

「お前これを作るの確か15分ぐらいでやったやろ、オレは正直言ってビックリしたよ。新人でこんなに早く仕事出来るやつ見たことないからな。お前がその場でちゃんとオレに、チェックしてくれ、って持ってきていたら、オレはその場で確認して、お前の仕事っぷりを局長に報告出来るやろ。オレを通していたらちゃんとケツ拭いてやるから、どんな些細なことでも必ずオレに報告しろ。ええか。オレは営業やけど、現場も知っておかないとあかんのや、現場だけで勝手に動かれたら困るんや、わかるやろ。今後、どんなことでも絶対オレに報告しろよ、わかったか。」

 僕の返事に選択肢はなかった。

「はい、分かりました。ちゃんと報告しなくてすいませんでした。以後気をつけます。」
 僕が素直に謝ると、彼の怒りは多少落ち着いたようで、じゃあ、仕事続けとけ、と言い残して自分の席に戻っていった。山本さんが自分の席で作業を始めるのを確認すると、僕は何か一つ大きな山場を越えたような達成感を覚えた。なんとか、この場は乗り切った。時計を見ると、10時30分だった。もうそろそろ誰か来てもいい時間だ。あと、一踏ん張りだ。

 僕が席につこうとした時、会社の入り口に大きな人影が見えた。社長だった。やっと、やっと、1人ぼっちの苦痛から解放されたのだ。190cm近い身長の社長の体がさらに頼もしく、神様のように見えた。社長がいれば、山本さんもそんな無茶は出来ないだろう。
 社長がオフィスに入ってくると、僕は嬉しさを隠せずに元気いっぱいに挨拶した。

「社長、おはようございます」

 社長は僕のあまりの声のでかさに少しビックリした様子で、きょとんとしながら応えた。

「ああ、おはよう」

 山本さんは社長に対しても挨拶する様子はなく、作業を続けていた。社長は山本さんの横を通り過ぎる時、山本、おはよう、と声をかけたが、山本さんは目を合わせようともしなかった。社長は何かヘンな雰囲気を感じとったようで、その場に止まり、山本さんの様子を伺っていた。

「どうした山本、何かあったのか?」

 しばらくして社長がそう言った時、また突然、山本さんが激しく立ち上がった。山本さんの机から書類が崩れ落ちる絶望の破滅音は僕に危険信号を伝えた。

「なかたにー、ここにあるやんけ」

 見ると、手には封筒を持っていた。目が合うと、もの凄い形相をした山本さんがいた。手に持っている封筒はあまりの力にぐしゃぐしゃになっていた。彼はまるで、社長の存在に気づいていないかのように、僕に言い放った。

「お前、オレの机にはないって言ったよな」

 僕には言葉を返す余裕などなかった。

「お前、オレの机にはないって言ったよな」

 山本さんはもう一度、そう言い捨てると同時に、僕のほうに向かって突進してきた。

「なんで、ウソつくねん!」

 僕は蛇に睨まれたカエルのように、身動きとれず、迫り来る山本さんを見ていた。
その時、社長がようやく緊急事態を理解したようで、大声をあげた。

「やまもと!」

 社長はそう叫ぶと山本さんを捕まえようとした。山本さんは依然社長の存在をムシしながら、僕に向かってきた。山本さんが僕の胸ぐらを掴んだ瞬間、社長が山本さんの腕を捕まえた。

「山本!何してるんだ!」

 山本さんは僕を睨み続けながら、暴れて社長の手を振りほどこうとしていた。僕は何も抵抗しなかった。いや、抵抗出来なかった。

「やまもと!」

社長は叫びながら暴れる山本さんを力任せに僕から引き離した。山本さんは何も言わず、僕を見ながら必死に社長の腕を振りほどこうとしていた。

「やまもと!」

社長は最後にそう叫ぶと、社長室に山本さんを無理やり引きずりこんで、ドアを閉めた。

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