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もう限界!非常階段を全速疾走して逃げる!

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 僕は山本さんの視線を後ろに感じた。橋口さんも自然と空気を察したらしく、僕たちは会話をやめて各々仕事を始めた。僕は仕事の説明してもらっている途中に橋口さんが逃げ出してしまったので、何をしたらいいのか未だ分からなかった。しかし、何もしないわけにはいかないので、また退屈なクリックを始めることにした。山本さんのことは気になっていたが、一人の時とは比べものにならない余裕があった。だが、さすがに後ろを振り返る勇気はなく目の前にあるモニタが僕の視界のすべてだった。オフィスの中は静まりかえり、たまに聞こえる工事の音と橋口さんのクリックの音がいつもより大きく聞こえた。

「なかたにくん、山村さんは?」

 橋口さんがモニタを見たまま、僕に小声で話しかけた。僕は橋口さんのその無謀さにビックリした。僕としては今は山本さんの神経に触れる可能性のあることは極力避けたかったのだが、無視するわけにもいかないので、少し時間をあけて大丈夫そうなことを確認してから応えた。

「まだです。」

 ビビリながら呟くよう応えた返事は橋口さんまで届かなかったようだ。今思うと、口を動かしただけで声は出ていなかったのかもしれない。

「えっ、なんて?」

 橋口さんがしつこく尋ねてきた。しかし、僕はすこし考えてから無視することに決めた。橋口さんは何度かその後も尋ねてきたが、僕がリアクションしないので、しばらくして大人しくなった。
 すこしして、後ろから席を立つ音が聞こえた。いつもの破滅の音ではなく、ごく自然な音だったが、僕はその音を聞いた途端にまた体が硬直してしまった。足音が聞こえはじめると、僕はその音に全神経を払った。スタスタ、という音が僕の心臓をバクバクさせた。しかし、その足音がオフィスの入り口のほうに向かっていることに気づくと、動悸はおさまり安心感に包まれた。
 足音が聞こえなくなり、少し経つと、僕と橋口さんは合図をしたかのように同時に顔に見合わせた。

「山村さん来てるやろ。何処いったん?」
「いや、来てないですよ。橋口さんが最初ですよ。」
「ウソつけ、オレ来るとき、廊下で会うたぞ」
「えっ?」
「探しに行こう!」
「えっ、大丈夫ですか?」
「アホか、ここにおるほうがよっぽど危険や、去年の夏にもこんなんあってん。」

 僕たちはオフィスを出て山村さんを探すことにした。モタモタしている時間はなかった。山本さんと鉢合わせしたりしたら何が起こるかわからないからだ。僕たちはすぐにオフィスの入り口まで移動した。オフィスのドアから少し顔を出して誰もいないことを確認すると、次は廊下の交差点までサッと移動した。10階やなかたにくん、橋口さんがそう言った。僕は理由を尋ねず頷いた。声を出すのは危険な気がした。
 このビルはエレベータが一つしかなかったので、僕は非常階段を使うことにした。いつも非常階段で弁当を食べていた僕は、非常階段を知りつくしていたので、こっちのほうが逆に安全な気がしたからだ。しばらくその場で立ち止まって神経を集中して周りを見た。そして、今いる12階のフロアの廊下には人の気配がしないことが分かると僕は非常階段に向かった。非常階段のドアを開けると、いつもお昼を食べているその空間が全く知らない場所のような気がした。僕は出来るだけ足音を出さぬように気をつけながら、階段を駆け下りた。10階につくと僕は非常階段のドアを開けずに橋口さんを待った。
「なかたにくん、急ぎすぎや」
 すこしして下りてきた橋口さんは息を乱しながらそういうと、ドアを開けた。
「やっぱりな」

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