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影のボス、局長が登場

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「おはよう」

 すぐに局長が住友さんといっしょに出社してきた。住友さんは自分の席に向かったが、局長はオフィスの入り口付近で立ち止まっていた。山本さんは局長と目が合うと席を立ち、局長のほうへ向かっていった。局長が首をすこし横に振って会議室に入ると、後を追うように山本さんも会議室へ入り、会議室のドアは静かに閉められた。

 とても静かだった。バタンというドアを閉める音がずっと僕の頭の中に残っていた。いつまでたっても静かで、そして随分長い時間が経った。時計はすでに1時をまわっていた。
「なかたにくん、飯行こうか?」
僕は橋口さんにそう声をかけられると、黙って上着を着た。オフィスを出る時、会議室の前を通ったが人がいることを感じさせないぐらい静かだった。エレベータの中で僕たち二人は言葉を交わさなかった。外に出ると不思議なぐらいの快晴だった。
「すごいいい天気ですね。」
僕がそう言うと、橋口さんは小さく頷きボソっと言った。
「いつものとこでええか?」
僕はしゃべるのをやめ、頷いた。
いつもの定食屋に入ると僕たちは日替わりランチを頼んだ。橋口さんは山本さんと付き合いが長いようで少しショックを受けているようだった。 僕は僕から話しを切り出さないと沈黙のまま終わってしまうなと思い、橋口さんに話かけた。
「大変なことになりましたね。」
話かけると橋口さんは案外いつも通りだった。
「そうやな」
「僕は知らなかったんですけど、前兆があったんでしょ。」
「そうやな、そういえば、あいつちょっと前からホモがどうの言っててん。」
「えっ、どういうことですか?」
「なんか急に、オレホモちゃうで、とか言っていたわ。2週間ほど前かな。今より全然普通やったけどな。なんかあったんかな?」
「どういう人なんですか?」
「悪いやつじゃないよ、ただ、波は激しいわ。調子のいい時はご機嫌で自信満々で、調子の悪い時は余裕なくなって腰低くなるねん。分かりやすいで。」
「僕は自信満々な人やと思ってました。」
「自信満々な時はヒドイで。車でマクドをドライブスルーで買って食べているとするやん。そんならいきなり窓から捨てたりするからな。」
「最悪じゃないですか。」
「それで、調子悪い時は、すぐ機嫌とりにきよる。ゴメン、怒らんとって、とかな。なんせ、何にもしてないのに謝ってくるねん。まあ、そういうヤツなんよ。」
「でも、悪いやつじゃないんですか?」
「んー。オレはあいつ悪いやつやないと思うよ。なかたにくんはこの1週間しかあいつのことしらんから、悪いやつと思ってしまうかもしれんけどな。あいつ、ボクシングやっていたから一種のパンチドランカーかもしれんな」
「ボクシングやっていたんですか、よかった耐えて。」
「耐えて、ってなかたにくん」
「いや、僕はビビリやから何も出来ないですけどね」

「あいつはものすごい局長に憧れているねん。」
「なんかさっきも言ってましたよね。」
「そう、だから、局長に追いつけ、追い越せやねん、いつでもや。なんでも管理したがるやろ。あれも局長といっしょや。」
「僕も何でも報告しろって言われましたよ。」
「そう、それや、なんでも報告しておいたらケツ拭いてやるから、っていうのが局長の口癖やねん。」
「あっ、僕全く同じこと今日山本さんに言われましたよ。」

 話に熱中していた僕たちの前には日替わりランチが運ばれてきた。食べ始めると僕たちは一言も会話を交わさくなった。食べ終わった後も二人とも話かけるきっかけを失い、ただ、ぼんやり、遠くを見たりしていた。橋口さんはたばこに火をつけ、おおきく吸い込み、大きくはいた。お互い目を合わせるのもなんとなく気まずい状態で、10分ほど時間を過ごした。
 そして、橋口さんの、そろそろ帰ろうか。という一言に僕はただ頷き、僕たちは会社に戻った。

 会社に戻っても何も変化はなかった。依然会議室のドアはしまったままで、その中に人がいるのか、いないのか全く分からなかった。ただただ、オフィスの中は静かで、上で行っている工事の音だけが大きく聞こえていた。僕は会議室が気になって仕方なかったが、背後にある会議室は定時の5時30分まで動きはなく、僕は橋口さんに、"今日はもう帰ります。"、と伝えて家に帰った。

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